さよならの十秒前

修介は、文庫を手にしたまま、こちらをぼんやりと眺めていた。

声を掛けてくれればいいのに。

「修介」

私がそう呼び掛けると、修介は小さく手を振って、背を向けて行ってしまった。

私の視線を追った紗枝は、修介に気付いて、少し驚いた顔をした。