桜並木が続いている。
青空の下、淡い花びらを風に散らして、短い命を咲き誇っている。
私は、肩から下げた新しい通学鞄を抱えなおして、息をいっぱいに吸い込んでみた。
坂道に香る、春の風。
私の学校は、この坂を上りきった先にある。
1月、受験のためにこの坂を上っていった時には、ゆっくりまわりを見ている余裕もなくて、冬だというのに、じんわりとわいてくる汗を、ぬぐっていた。
ドキドキと跳ねる心臓の音が、耳の奥で響いていて、それしか、聞こえなくて。
今は、同じようにどきどきしながら、その種類は全く別のもの。
今日から、私は、この学校に通うんだ。
新しい仲間、新しい教室。
去年まで背負っていたランドセルの感覚がないのが、少し不思議。
スキップをしてしまいそうな私の心を、後押しするように、桜の花がひらひら落ちる。
友達同士で笑いあいながら、坂を上ってくるのは、上級生かな。
坂の下からずっと続いている桜並木に祝福されて、やってくるのは、同級生かな。
電車で二駅揺られた先の、この学校に、まだ友達はいないけれど、どんな生活が待っているのか、今から楽しみで仕方ない。
中学生。
少しだけ大人になった私の、学園生活は、毎日、この桜並木の坂から始まる。
きっと、楽しくて、わくわくして、どきどきして、目が回るくらいに、毎日が忙しくて。
もしかしたら、恋に落ちて。
三年間が、かけがえのないものになる。
うれしい予感に胸を膨らませて、私の足は、早くなる。
まるで、風に乗って飛ぶ、あの桜の花びらのように……。
4月、
今日は私の、入学式だ。
新しい生活が、今、始まる――……。
輝く時間が、この瞬間から。