僕の視線は、さっきから、時計の腕文字盤と電光掲示板の間を、せわしなく行き来している。
運行情報のお知らせに載る遅延時間が一分増える度に、いらいらと、くわえた煙草のフィルターを噛み潰している、隣のおやじにすら、いらいらさせられる。
この駅のホームは全面禁煙なのだ。
腹立ち紛れに、舌打ちをして、僕は、鞄に手を突っ込んだ。
先ほど、駅の構内のスタンドで購入したスポーツ新聞を、バサバサと広げる。
派手な色の大きな活字が、寝起きの頭には、酷く刺激的だ。
地元の弱小球団の、今期初勝利を大げさなまでに讃えている記事を、読む。
プロ野球に興味があるわけではないが、手持ち無沙汰も、気が滅入るだけだ。
電車がホームにつくまでの時間が、短くなるわけではない。
後ろで、通学の大学生の声がする。
だるい、だの、今日は休む、だの。
数年前までは僕もそうだったのだから、責めるわけではないけれど、正直、羨ましいくらいに脳天気だと、思ってしまう。
何度目かの構内アナウンスが、再度、列車の遅延を知らせると、並んでいる人々の間から、いくつもため息が漏れる。
うんざりとした声で、急いでいることを主張する人間も、いる。
僕はといえば、取り出したばかりのスポーツ新聞を、もう一度折り畳んで、鞄にしまい直した。
腕時計を確認し、電光掲示板を見上げる。
僕は、絶望的な時間表示に、ひとつ、頷いた。
鞄を抱えなおし、人混みをかき分ける。
ここで、遅れるわけにはいかない。
迷惑そうな人たちに軽く頭を下げて、僕は、駅を出た。