ビターチョコレート【被害妄想彼氏 番外編】


慎一さんはタバコに火をつけ
フウーっとタバコをふかすと、空をまた見上げた。



その時、私の姿に気付いたのか、
タバコをくわえ、ゆっくりとこちらに向ってくる。



「おお、悪いな。

ボケーっとしとったわ。」


いつもの表情で、
慎一さんは言った。



…無理してるのかな。



なんとなく、
そう思ってしまった。



だって、
慎一さんがボケッとする事なんてまず無いもん。




「…なんて、
嘘や。

……あん時の空と似ててん」



慎一さんはタバコの煙を口から逃がすと
また空を見上げた。



「あの時…?」



「俺が、失恋した日」



その時、
確かに私の胸はズキン、と音を立てて鳴った。



それは、
慎一さんの口から聞きたくなかったという思いか、

慎一さんが本当は辛かったのを知ってしまったからか…


それは分からない。



「でも、
アイツはもう、幸せにやってるみたいや。

この前顔見た時分かった。


その時は踏ん切りついてへんかったから逃げ出したみたいになってもうたけど、


今なら多分、笑って『良かったな』って言ってやれそうな気する。」



慎一さんはタバコをくわえて
歩き出した。




「もう、大丈夫なんですか?」



私がそう言うと、
慎一さんは振り向いた。



「お前のお陰でな」



慎一さんは
いつもの意地悪そうな笑顔では無く、
素直な笑顔でそう言った。