ユピテルの神話



静かでした。

哀しみさえも穏やかで、不思議と涙は出ませんでした。

頂上の崖に座り込んだまま月たちを見上げ、僕はぽつりと呟きました。


「…こんなに心を浮かべても…尚、僕にはそれを嘆く心が在る…」


風たちは、僕の言葉を森の主に伝えるでしょう。
彼は人々に伝えるでしょうか。


「…全てはこの世界の為に…。僕に『心』なんて、存在しなければ良かったのに…」


神二、心ナンテ…


ワン…!
『ダメ!俺、生まれなかった!』

ロマが膝の上で僕を見上げていました。


「…そうでしたね、御免なさい。僕に心が無かったら、貴方は生まれなかった…。貴方にも沢山救われたのに、僕は何て酷い事を言うのでしょうね…」

ふふ、と僕はエマの様に微笑みながら、ロマを優しく撫で続けました。


ワンワン!
『…俺、生まれたからユラと会えた。エマと会えた。花たちとも、虫たちも、森の主とも友達。生まれた事、嬉しい!』

「…えぇ、僕も嬉しかった…。有り難う、ロマ。」


僕の身勝手で彼を生みだし、僕の身勝手で消してしまう命。
その彼の言葉で、僕は少し救われた気がしました。


『…もうすぐ、時間?』

「…えぇ。そうですね…」