ユピテルの神話



迷いの森深く、なかなか人々が足を踏み入れない高い山。
沢山の緑色の光を浴びながら、僕はロマと共に頂上を目指しました。

木々の光には、癒しの力が込められている。
これから最期を迎える僕なのに、不思議とあまり寂しさを感じられませんでした。
植物たちの僕への優しさを感じました。


幸いにも、僕の中にあるエマへの想いは小さなままでした。
この時なら…
世界か彼女かを秤にかけたのなら、僕は世界の為を選ぶ。

それは幸か不幸か、
これから人々に伝わるだろう神話の道筋通りだったのです。


山の頂上は、
木々の無い岩場でした。

僕は岩場の一番高い場所へ、地が続く限り足を進めました。

紺色の夜空の下。
手を伸ばせば、すぐそこの月に届きそうでした。

寂しくはなかった。
しかし、


「……エマ…」

彼女への愛情を閉じ込めた月を見上げ、どうしてあの心を手離してしまったのだろうと哀しみが育つのです。

彼女が僕を忘れる為に必要だった事。

理由は十分なはずなのに、残された僕の彼女への未練が、その月を求めてやまなかったのです。


アノ心ト繋ガッタママ、
消エタカッタ…


サァ…と清らかな風たちが僕の体をくすぐる様に横を抜けました。