「…それでも、七色の花の露でも治らない病ですから。他の村人が同じ病で苦しんだ時の為に…。」

「…優しいわね、ユラは…」

ふふ、と微笑むエマの顔を見ると、無くしたはずの彼女への想いがまた育ってしまうのです。


「…さぁ…、僕は出掛けますから。貴女も疲れているでしょう…。村へ帰って休んで下さいね?」

僕はそう表面上だけの優しい言葉を掛けながら、彼女から顔を逸らしました。


ドウカ、
僕ヘノ想イヲ思イ出サナイデ。


「…えぇ。じゃあ、また明日ね!さよなら、おじいさん。ユラ!あまり無茶をしては駄目よ?」

彼女は何も知らないまま、この場を去ろうと手を振ります。


「…はい…気をつけます…」

あどけなく笑顔で手を振るエマに、僕も明るい声で答えました。


サヨナラ。

本当二、サヨウナラ…


手を振る僕の耳元で、
森の主は小さく言いました。


『…例え、世界に伝えるのは一部だろうとも…。わしの記憶には、二人の過ごした時間が鮮明に残るじゃろう…』


それは風たちの助けを借りない、僕にしか届かない小さな声。


『…人に…残らないのは…淋しいのぅ。』


…イイエ。

コレデ良イノデス。