しかしいくらあかりのハッキングの腕が(すぐ)れているとは言え、これだけ足のつきやすい行動(こうどう)をしてるということは、同業者(どうぎょうしゃ)もICPOもそして組織も、すでにマルケスの居場所(いばしょ)特定(とくてい)してる可能性(かのうせい)が高い。
「急いだ方が良さそうだな」
言って、ディルクはコクピットへ向かう。
「バルセロナ(こう)へつけるぞ」
「オッケー」
船を発進(はっしん)させ、バルセロナの(みなと)へと向かった。
 
普通(ふつう)の船ならいざ知らず、バラクーダならバレンシアからバルセロナまで数時間だ。
こいつには普通のエンジンの他に、ちょっと特殊(とくしゅ)推進装置(すいしんそうち)()んである。
超電導(ちょうでんどう)推進装置。平たく言えば、電磁石(でんじしゃく)電流(でんりゅう)を使ったフレミングの左手の法則(ほうそく)で船を走らせる装置だ。
もちろんそんなもん、そこらのパーツ屋で買えるもんじゃない。米軍(べいぐん)開発(かいはつ)したプロトタイプを、昔のコネを使って研究所(けんきゅうじょ)(しの)び込んで、ちょっくら失敬(しっけい)してきたわけだ。
このバラクーダ、あちこち強化(きょうか)してあるとは言え船体(せんたい)自体(じたい)はいたって普通のメガフィートのクルーザーだ。軍を()めてすぐシカゴのアングラカジノで()けに勝ち、チンピラマフィアから()き上げた。
その後メキシコの武器商人(ぶきしょうにん)からGE社(せい)M61バルカン3(もん)を買って、船の前後に取り付けた。操縦席(そうじゅうせき)(となり)のガンナーシートから操作(そうさ)できる。
こんなもん付けたせいで、船の前半分が弾薬庫(だんやくこ)制御装置(せいぎょそうち)()まっちまって、バラクーダはメガフィートのくせに居住(きょじゅう)スペースが(おそ)ろしくせまい。
ホントはファランクスかゴールキーパーが()しかったんだが、さすがにデカすぎて乗らなかった。
ついでに同じ武器商人からライフルやらスティンガーやら買ったのだが、代金(だいきん)()(たお)して逃げちまったもんで、実は俺もお(たず)ね者だ。
ま、その商人、(やみ)商売(しょうばい)してるやつだからサツにもかけこめず、表の世界じゃ俺は指名手配(しめいてはい)はされてない。
船体はアメリカ製だが、エンジンは日本製に変えた。メカはアメリカ製はダメだ。何てったって日本製に限る。日本のテクノロジーは世界一だ。トランスフォーマーのサムだって、バンブルビーを初めて見たとき『間違(まちが)いなく日本製だ』と言ってたじゃないか。
さて、そろそろバルセロナ港が見えてきた。ディルクは(あぶ)なげなくゲストパースに船をつけた。