もちろん、(ころ)してしまっては意味がない。船を航行不能(こうこうふのう)にするのが目的だ。狙ったのは船のスクリュー。
しかし――
漁船は何発か弾を食らいながらも回避運動(かいひうんどう)(おこな)い、なんとかスクリューへの直撃(ちょくげき)()けた。
「なんだあいつ?! ()けやがった!」
「動き的に、漁船っぽくなくない?!」
まるで、北(ピー)(せん)工作船(こうさくせん)だ。もしかしたら船もそのオーナーも、まともなモンじゃないのかもしれない。
「くそが! もういっちょ!!」
 
ガ―――――!!!
 
今度は反対側へ(かじ)をきり、またもや避けられた。いくらかは命中しているのだが、船を止めるまでにはいたらない。
ガトリングガンはバレルが回転を始めてから弾が発射(はっしゃ)されるまで、一瞬(いっしゅん)のタイムラグがある。向こうの船長はこっちのバレルの動きを見て、船を回頭(かいとう)させているようだ。
理屈(りくつ)で言うのは簡単だが、実践(じっせん)するのは簡単じゃない。何度もこの手の経験(けいけん)()んでなければ。
このままじゃラチがあかない。武器(ぶき)を変えなければ……
「ディルク! 俺が操舵(そうだ)する! お前なんとか狙撃してくれ!」
すでに超電導推進はオフにし、通常航行(つうじょうこうこう)に切り替えている。超電導では速過(はやす)ぎるからだ。4機がけのディーゼルエンジンと波の轟音(ごうおん)の中で、俺は相棒(あいぼう)から舵を受け取りながら(さけ)ぶ。
「無理だ! こんなに()れる場所で、ライフルで当てるなど!」
「なら、スティンガーだ! あれなら誘導装置(ゆうどうそうち)付きだから、狙ったところにぶち込めるだろ!」
「確かにそうだが、破壊力(はかいりょく)が大きすぎる! 下手なところに当たれば、船ごと()端微塵(ぱみじん)だぞ?!」
「そこはスナイパーの腕の見せ所だろ! (たの)むぜ相棒!」
口の(はし)を上げて、にまりと笑う。
「わかった。なんとかしよう」
「そうこなくっちゃ。あかり! スティンガー持ってこい!」
「上から目線マジムカつく! もう持ってきてるっつーの!」
見れば、ちょうどあかりが武器庫(ぶきこ)からスティンガーを持って、上がってくるところだった。
FIM-92Fスティンガー。本来(ほんらい)携行式(けいこうしき)地対空(ちたいくう)ミサイルなのだが、使おうと思えばそれ以外の用途(ようと)にも使える。
パッシブ式赤外線(せきがいせん)紫外線(しがいせん)シーカーで誘導(ゆうどう)するため、目標(もくひょう)目視(もくし)さえできれば逃げることはまず不可能(ふかのう)だ。
俺はディルクが狙いやすいように、バラクーダを漁船と並走(へいそう)するように走らせる。
ディルクはスティンガーを(かた)(かつ)ぎ、目標に狙いを定める。シーカーが目標を(とら)えた。