いつからだったか、世界中を逃げ回るような悪人どもをとっ(つか)まえるために、ICPOと国連(こくれん)が『国際犯罪懸賞金法(こくさいはんざいけんしょうきんほう)』、通称(つうしょう)『BH(バウンティハンター)法』なるもんを作って、金を欲しがってる(あら)くれ者どもを味方につけちまおうって世の中になったわけだ。
おかげで今や、世界中で犯罪者(はんざいしゃ)とBHたちのイタチごっこが毎日()り返されてる。ま、俺もそのうちの一人なわけだが……
ネイビー・シールズを()めてBHになったとき、ウェブで仲間募集(なかまぼしゅう)の広告を出して最初に応募(おうぼ)してきたのが、このディルクだったわけだ。
「よくこんなところで寝られるな。死ぬぞ」
「軍にいりゃ、寝られる時にどこででも寝られないと、逆に早死にするんだよ」
「僕には無理だな」
無表情(むひょうじょう)のまま、ディルクはクルーザーのキャビンへ()りる。
こいつは(うで)も頭も良いが、いかにもドイツ人らしく愛想(あいそ)がない。いつでもクールなポーカーフェイスで、論理的(ろんりてき)に動きやがる。
っても俺がその真逆(まぎゃく)な性格だから、逆にうまくいってる気がしないでもないが……
頭の後ろをかきながら、俺もディルクについて下に降りた。
 
テーブルの上には、巨大なピザが用意(ようい)されていた。クルーザーの簡易的(かんいてき)なキッチンで、どうやってここまでデカいピザを作ったのかわからないが。
トッピングはやたらとソーセージが多かった。ドイツ人のせいか、ディルクは無類(むるい)のソーセージ好きだ。
この相棒は料理の腕が良いので、なし(くず)し的にうちの料理担当(たんとう)になってしまったが、メニューに過剰(かじょう)なまでのソーセージを使うのが難点(なんてん)だ。
「またウインナーか……」
俺はため息まじりに席につく。
「ウインナーじゃない。これはフランクフルトだ」
「どっちもソーセージじゃねえか!」
席につきながら訂正(ていせい)してきたディルクに、俺はすばやくツッコむ。
「あかり。お前もさっさと席につけ」
俺のツッコみはまるっきり無視(むし)して、この相棒はうちの船の『居候(いそうろう)』を呼ぶ。
「ふわ~い」
()()けた子供のような声……というより子供そのものの声が聞こえてから、『そいつ』はベッドルームから現れた。
「てかトッピング少なくね?」
軽くダメ出ししながら席についたこの居候は、名を四ノ宮(しのみや)あかりという。