黒――
 それは僕の好きな色。
 どの色よりも深く、どの色よりも静かで落ち着きがある。
 それが僕が好きな理由。
 方角は北、季節は冬を表わすその色は、これからやって来る季節に、僕が向かう場所にちょうど合う。
 僕にとっては縁起が良い色。
 電車は三つ目のトンネルを抜けて行く。
「あたしもお兄さんみたいな生き方をしたいなあ」
 女の子は窓の外の景色を見つめながら言う。
「ずっと一人旅か……あたしも本当にやっちゃおうかな」
 僕は女の子を見て小さく笑う。
「君には無理だよ」
 そう言うと女の子は僕を見る。
 二人の目が合う。吸い込まれそうになる美しい黒い瞳。
「あー、お兄さんちょっとひどい。こういう時はお世辞でもいいから、頑張れよ。とか、出来るといいね。って言うんだよ」
 女の子は冗談半分で僕を叱る。
 トンネルは四つ目。
「そうかい。それじゃあ君も頑張れよ」
 そう言うと女の子は笑顔になり、言う。
「うん。頑張る」
 そして二人で笑う。
 線路と道路の間を流れる川。
 その川も終点まで続く。
「次のトンネルはちょっと長いよ」
 電車が向かうのは五番目のトンネル。
「お兄さんは、ちゃんとした仕事に就かないの?」
 女の子の問いに僕は答える。
「僕はちゃんとした仕事を持っているよ」
 それを聞くと、女の子は、何を言っているのか分からない。と言った表情になる。
「え、だってお兄さんは、仕事をして無いからこうやって一人旅が出来るんでしょ?それに、仕事をして無いから、お金が無くなったら働かなきゃならないんでしょ?」
 窓ガラスに映るのは外の紅葉ではなく、僕と女の子がシートに座っている姿。トンネルの中ではそう映る。