ここまで来た時のように



ぼくは蕾の後ろ姿を見つめながら



夜を歩いた



灯りの消えた家やアパートが視界の端に映ると



まるで


世界には ぼくと蕾


二人しか いないんじゃないか


そんな気持ちになった


世界中の人達が死に絶えて


この夜の闇の中には


ぼくと蕾


二人だけしか呼吸をしていないんじゃないかって



  一緒に生きるのではなく
  もっと深いところまで
  一緒に堕ちてくれる人



蕾の言葉が 胸に残って



ぼくの数メートル先を行く



蕾の頼りない背中を



捕まえたくなる



今、走り出して



腕の中に蕾をしまい込みたい衝動に駆られる



このまま 蕾と闇の中を歩き続けることが出来たなら



ぼく達の傷は痛みは
重なるだろうか



蕾の背中に腕を伸ばしてみるけど



指先が宙に浮いて止まる



蕾を抱きしめた瞬間


ぼくは きっと
蕾を壊してしまうだろう



何も掴むことなく下ろした手を



ジーンズのポケットに押し込んで



数メートルの距離を保ったまま



ぼく達は家に戻った