部屋に戻ろうとする蕾の背中に
「何か飲まない?」
そう訊いた
ゆっくり ぼくを振り返り
にっこり笑って蕾は うなずいた
その時
なんて言ったら いいのかな
胸に 温かいモノが じわじわと しみて行くような
不思議な感覚だった
ぼくはキッチンでお湯を沸かし
ミルクティーを淹れた
居間のソファーに座り
両手でマグカップを包むように持ち
軽く唇をとがらせ
フゥ――――――と
ミルクティーに息を吹きかける蕾の横顔が
とても脆く壊れやすいガラスみたいに思えて
愛しかった
それから毎日のように
蕾は真夜中
家を出ようとして
ぼくが止める事が続いた
「どこかに行きたいの?」と訊ねても
蕾は 首を横に振るだけだった
とりあえず
ぼくは慢性の不眠症なので
蕾を止める事が出来た
不眠症で良かったと
初めて思った



