蕾が生まれた日は大変だった
その言葉を聞くたびヘドが出る
それじゃ蕾が生まれた事が
悪い事みたいじゃないか
――――――ガタン
ベッドの上で考えてたら
玄関の方から物音がした
………なんだ?
蕾がトイレにでも行ったのかな
気になってベッドから降り
暗闇の中、玄関へ向かうと
玄関の扉の小さなガラスから差し込む月明かりの中
靴を履く蕾の後ろ姿が見えた
「蕾、何やってる?」
声をかけると
バッと勢いよく蕾は振り返り
無表情のまま
「散歩に行こうかな」
散歩?
ぼくが 戸惑いながら
「こんな真夜中に?」
蕾は静かにうなずいた
「ダメだよ、蕾。こんな遅くに出歩いたら………」
危ないよ
そう言おうとして口ごもる
蕾に そんな事を言っては
忌まわしい事件を思い出す
そんな ぼくを 静かに見つめ
「そうだよね。ごめんなさい
お兄ちゃん」
蕾は靴を脱ぎ
ぼくの横を通りすぎて
居間に入った



