今夜は咳が うるさいと



追い出されたのか



母の怒鳴り声の理由がわかり



ぼくは やっと蕾の背中を
そっと さすった



一瞬 ビクッと蕾の肩が動いて



弾かれたように 振り返り



ぼくを見上げた顔は



恐怖もなければ
哀しみもなく



人形のような 白い顔だった




「風邪…ひいたのかな?」



ぼくが小声で蕾に話しかけ



蕾の額に手を乗せた



「熱はないようだ

何か、飲んでから寝ようか」



ぼくの言葉に蕾は首を横に振り



「夜、お台所…使ったら
お母さん…………」


「大丈夫、大丈夫
お兄ちゃんが用意するよ」



ぼくはキッチンで



ぼくのマグカップにポカリを注ぎ



蕾を自分の部屋に連れて行った



ぼくのベッドに座り


蕾には大きすぎるマグカップに口をつける妹を見て



可哀想に思ったが



翌朝、母が蕾のカップが使われた跡を見たら



蕾が どんな目に合うか



ぼくが夜にのどが渇いた事にしたら 何も問題はない