子供の頃
まだ、ぼくと蕾が両親と暮らしていた頃
真夜中 母の怒鳴り声と
激しい物音で目を覚ました
静かになってから
小さな足音が階段を降りて行くのが聞こえて
ぼくは ベッドから抜け出し部屋を出て
寝室の母に気付かれないように
階段を降りて行くと
廊下の向こう
玄関にパジャマで背中を丸くして俗に言う体育座りしている
小さな蕾の後ろ姿が
玄関のドアの小さな磨りガラスから
差し込む青白い月明かりに照らされて
その寂しい後ろ姿に
ぼくは しばらく声がかけられず
バカみたいだろう
もう高校生のぼくが
小さな子供の妹に
声をかけられずに戸惑うのだ
「……ケホッ………ケホッ…」
小さな背中を上下させて蕾が咳こんだ
だけど小さな両手で口を押さえ
必死に咳を我慢しているようだった