ぼくの 妹 姫






蕾は フッ…と
身体の力を抜き



手を伸ばして
ぼくの頬を
親指で撫でた




「……怒って……ないの?」




暗い部屋の中
蕾のかすれた声が響く





「お兄ちゃん……
蕾のこと…………
…怒ってない?」



全く意味がわからなかった




どうして ぼくが
蕾のことを怒るのか



「どうして?
どうして、ぼくが
怒ってると思うの?」



蕾はガラス玉みたいな瞳を
真っ直ぐこちらに向け




「……だって…………
勝手に逃げ出したような
モノだから……………」




勝手に逃げ出した




確かに そうだったかも知れない



だけど、そんなこと
考える余裕もなく
ただ ただ苦しかった



蕾がいなくなった日々を
過ごすのは
そんなこと考える
余裕なんてどこにもなかった




「ぼくが蕾を怒るわけない」





その一言を口にすると
蕾の表情が切なそうに
ゆがんだ