ぼくの 妹 姫





居酒屋から出ると
火照った頬に
冷たい夜風が吹いた



星が瞬く空を見上げてると



「私の泊まるホテル
ここから近いの
歩いて行けるから
ここで」




うつむき
地面をにらんで蕾は言った






「さよなら、お兄ちゃん」







ぼくに背を向け歩き出した蕾は
夜の闇に溶けて行くようだった






気がついた時には
走り出し
後ろから蕾の腕を
思い切り捕まえてた




驚いて振り返った蕾に
ぼくは何も言えず
うつむくと無意識に
だんだん手に力が入り
蕾の腕をきつく絞めていた




「……お兄ちゃん
痛いよ…………」




その声に少し力を緩めたけど
離すことは出来なかった




この手を離せば
もう一生
蕾には会えない




ぼくは もう分かってた






道の真ん中で
どれくらい
そうしていただろう


夜に溶けていく
吐息がかすかに震えた



「蕾は、今、誰かいるの?」




ぼくの問いに
蕾が首を横に振った時



そのまま腕を引っ張り
タクシーをとめ
嫌がる蕾を無理やり押し込め
ぼくの泊まるホテルへ
連れて行った