ぼくの 妹 姫






「美紗さんとこの伯父さんが
手続きしたのは東京の中学
アパートで一人暮らしして

高校は寮のあるところに
進んだから寮で生活して

大学も出て
今は小さな出版社で
働いてる」





………じゃあ



蕾は あれから
ぼくと別れてから
ずっと1人で………



「お兄ちゃんは………」



言葉を失くしたぼくに
蕾はうつむいて




「お兄ちゃんには
おめでとう……だね

すごく遅くなったけど
結婚と子供が産まれて」



そこで一度 言葉を切り
瞳を閉じたあと
ぼくを真っ直ぐ見つめ




「おめでとう、お兄ちゃん
お兄ちゃんが幸せになって
蕾、本当に嬉しい」




ぼくは なぜだか
何度も首を横に振った



違う、違うんだ 蕾




幸せなんかじゃない
ぼくは幸せなんかじゃない




「大樹くん……だっけ?
ここに着いて
叔父さんの顔を見ながら
叔母さんに聞いたの……」




ガヤガヤとした
居酒屋の喧騒に混じって
聞こえる蕾の声




「私の甥っ子だね………
可愛いんだろうな………

5年分のお年玉と
クリスマスプレゼントと
バースデープレゼント
あげなきゃダメかな……

あと、お義姉さんにも
いつか、ちゃんと
挨拶しなきゃね………」




ひざに置いた手を握りしめ
唇を噛みしめた



にらんだテーブルの上
ビールのジョッキが
ゆらゆら にじんで見えた



雫が目から
こぼれ落ちないように
ギュッと眉を寄せた