親戚連中に挨拶して
通夜をあとにし
タクシーに乗った時
黒い影がシュッ……と
素早く乗り込んできた
ぼくが驚いて
一瞬 言葉を失い
「………蕾っ」
やっと言った時
パタンとタクシーの
ドアが閉まり
蕾が すっかり声変わりした
綺麗な声で
居酒屋の名前を
運転手に告げていた
タクシーが走り出したあとも
ぼくは隣に座る
背筋の伸びた蕾を見つめ
言葉が出なかった
「やだな、そんなに見ないで
―――――――お兄ちゃん」
フフッて笑った顔は
中学生の頃と
全く変わってない
「…………蕾………」
会いたかった
そう言いたかったのに
言えなかった



