身体が離れたぼく達を


包んだのは静寂だった


ただ じっと天井を見つめる
蕾の髪を指に巻き付けては
ほどいてると



あの夏の日を思い出した



「…………蕾」


しばらく間をおいて
蕾は返事をした



「………ん?」



「蕾はぼくが憎くない……?」



天井から視線をこちらに移し
蕾は不思議そうな表情をした



「どうして私が
お兄ちゃんを憎むの?」



「………だって」


ずっと謝りたかった事だけど
謝って済む話ではないし
蕾だって思い出したくない事だ



「お兄ちゃん?」



「………あの夏の日……」


ぼくのこの一言で
蕾の表情が変わる



「蕾を置き去りにしたせいで
事件に遭ってしまったから」




蕾は目を伏せ
きっと あの日を思ってる



忘れたと蕾は言ったけど
それは本当だろうか?



蕾は静かに首を横に振り


「お兄ちゃんのせいじゃないよ
家に帰らなかった蕾が悪い」



ぼくの目を見て微笑む



やっぱり訊かなきゃ良かったと猛烈に後悔した



結局ぼくは蕾が許してくれる事をわかって訊いたんだ




「ごめんな、蕾」


柔らかい頬を撫でると
気持ち良さそうに
蕾は目を閉じた



「蕾、もう離さないからね
絶対に離さないからね

蕾は一生ぼくが守るよ
蕾はぼくのお姫さまだ」



蕾はぼくの言葉を笑い


「蕾がお姫さま?
じゃあ、お兄ちゃんは
王子さまか勇敢な騎士殿だね」



いいや、蕾
ぼくはおぞましい夜叉だ


キミと暗闇を永遠にさまよう


おぞましい鬼――――――――