蕾は飛び出すように
椅子から立ち上がり


ぼくの胸元に掴みかかって



「ねえっ!
何をしてくれたのっ?

知らないなんて言わせないっ

お兄ちゃんにわかるのっ?

存在を全部否定されてっ

それでもお母さんに
愛されたいって願う

バカみたいな奴の気持ちが
わかるのっ?

わかって言ってんでしょっ?


親がわりって、
わかって言ってんだよねっ?」



………ドンッ
………ドンッ

蕾は拳を振り上げ
ぼくの胸を叩き叫んだ



「クズだって言われ続けると
そうだって思っちゃうの

死ねばいいって言われると
そうだって思っちゃうのっ

頭に心に耳に身体の全てに
こびり付いて取れないよ…」



蕾は崩れ落ちるように



「一瞬でもいいから
嘘でもいいから

『好き』って言われると
生きてていいような
気持ちになれる

身体を重ねてる
ほんの一瞬だけ

誰かに……………
クズみたいな私でも
誰にも愛されない私でも
一瞬だけでも
必要とされてるみたいで…」



哀しみや絶望に
潰されていく声で



「一瞬だけでも温かいから」



ひざから力が抜けるように
堕ちていく蕾を
両腕で抱き留めた




涙が止まらなかった



全てを燃やし尽くしても


蕾に残された傷まで


ぼくは消し去れなかった