からん からん ベルの音がしてお客が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

僕は水をカウンターに出した。

いつも来る常連のおばあちゃんだった。


髪がプラチナブロンドでショートカットにしている


品のいいおばあさんだ。


「いつものね」


八木さんはサイフォンに水を入れてアルコールランプに


火を掛ける。モカの缶を開ける。


やがて水が沸騰してモカのいい香りがしてきた。


「きょうはね、お土産があるの」


おばあちゃんは持ってきた鉢植えの野薔薇を


八木さんに差し出した。


「アジサイ」


「ああ・・・季節ですものね」


八木さんは言った。


「そうそう・・・」


おばあちゃんは笑った。


「家にたくさん生えているから、少し植え替えてやろうとおもってね」


「何をぼうっとしてるんだ?」


八木さんが不思議そうに僕を見つめた。


「いえ、何でも・・・・コーヒーあがりましたね」


僕はおばあちゃんにコーヒーをだした。


「ありがとう」


おばあちゃんは微笑んでコーヒーにミルクと砂糖を


スプーン一杯入れた。


「八木さんのコーヒーはおいしいわね」


それに・・・おばあちゃんは言葉を続けた


「最近入ったルイ君はね、うちの孫に似ているわ」


「そうなんですか?」


「孫はねアメリカにいるの。娘が外国人でね」


「アメリカのカリフォルニアで医者をやってる」


「あたしの夫はスウェーデンの外交官だったの。もうなくなったけど。」


「昔はわたしも社交界の花と呼ばれていたわ。


夫が無くなってから婚家を追い出されてしまって、


いまじゃ娘にも会えない一人暮らしだけどね」