「もしかして、迷っちゃった?」
茶髪でポニーテールにしている女子。
可愛くて、やっぱり3年生っぽい。
その女子のセンパイは辺りを見回して、
私がやっぱり迷子だということを再認識した。
「じゃあ、私が連れて行ってあげる。何組?」
「えっと……、5組です」
「おー、進学クラスじゃん。すごいねー!」
もともとクラスは知らせてあったから助かった。
その女子のセンパイは、“平井雪”という名前だった。
「あのー、雪先輩。
ピアノが上手い3年生っていますか?」
私はさっそく雪先輩に訊いた。
雪先輩はしばらく悩んだが、
首を横に振って答えた。
「知らないな、3年にピアノが上手い人って。
ピアノがめちゃくちゃ下手なやつなら知ってるけどね」
雪先輩は肩をすくめた。
「下手な人?」
「そう、いっつもいいところで間違えるの。どうしようもないヤツでさ」
私はその話を小耳に挟んでおく。
ピアノが下手なのは私だけじゃない、と思って。

