私は何も言わずに、演奏に集中する。 相手は誰か見なくても わかってる。 ねえ、 ちゃんと届いてる? 窓からふわりと、 優しい風が舞い込んでくる。 風に…… 風にのせて、 君へ届いてる? 「……この曲」 となりで、そう呟く声。 「マジかよ」 となりで、苦笑する声。 「すげーわ、やっぱり」 どこかで一度、 聞いたことのある笑い声。 ポーン…… と私は鍵盤から手をふわりと放す。