ピアノの近くまで椅子を持ってきて私は両手をひざにおいて、待った。
「なに弾くんですか?」
センパイはちらりと私のほうを見たが、
すぐにピアノに目を戻して言った。
「自分で調べろ」
えー。
なんですか、それ。
そうして、何の前触れも無くセンパイは弾き始めた。
ピアノが、ピアノじゃないみたいだった。
音が音じゃないような気がした。
心の中にすっと入ってきて、
優しく、優しく私の心を包む。
不思議だなー……
どこかで聞いたことあるような、ないような。
そんな曲。
自然と、笑顔になる。
「なんか……」
センパイはピアノを弾いてるから、
きっと返事はしないと思うけど。

