「だめだよ。喋らないで」

 涙が止まらない。これは夢だ。きっとそうだ。

「いいから、聞け。俺が、運ばれたら、ジャックに連絡しろ」

 俺に何かあったときのために、話はつけてある。

「クリア。だめだ。だめだよ……」

「すまなかったな。俺が、しっかり、お前を教えられ、なかった」

 あいつ(ベリル)なら、お前を一人前に出来たのかもな。俺は、だめだった。ここまで人に教えるのが下手くそだったとは泣けてくる。

「クク」

 セシエルは、小さくむせながら自嘲気味に笑う。

 最期まで、あいつ(ベリル)の影を、俺は追っているのか。こんなことなら、もう一度くらい会っておけば良かったよ。

「クリア! 嫌だよ。だめだ──っ」

 むせび泣くライカの頬に手を添える。涙が指を(つた)うが、セシエルにはもう、それを感じ取ることは出来なかった。

「わか──ったな。いつまでも、悲しんで、いるんじゃないぞ」

 お前のことは、神様によろしく言っておくよ。

「いやだ! いやだいやだ! クリア! オレを、一人にしないで!」

 返事もなく、ぴくりとも動かないセシエルを抱きしめるライカの耳に、サイレンの音が近づいてくる──




†††