──二人が一緒にいる事は確認できた。こっちは俺一人だから、確実に捕まえるためには一人ずつ相手にしないと。逃げられる訳にはいかない。
俺の体力の低下も考えると、計画は入念に練らなければならない。とはいえ、一人でいるときに捕まえる程度のものなので大した計画とも言えない。
二人で行動する方が少ないらしく早速、男は一人で外出した。バーでしこたま酒をあおり、泥酔しておぼつかない足取りのまま帰路に就く。
「んあ? なんだおまえ」
目の前に立つ人影に、男は眉を寄せる。薄暗い明かりに目を凝らすが、見覚えのない顔に眉間のしわを深く刻んだ。
「アントン・ベケット」
低く、くぐもった声に少しの怒りが感じ取れ、アントンは一歩、後ずさった。しかし、薄明かりで見えた風体に口の端をやや吊り上げる。
それなりの強さは伝わってくるものの、五十歳と思われる顔つきに余裕を浮かばせた。三十二歳のアントンは、こんなジジイに負ける訳がないと意気込んで殴りかかる。
セシエルは、その拳を軽く避け、バランスを崩したアントンの足を引っかけた。
「うわっ!?」
地面に転がるアントンを冷ややかに見下ろす。このまま大人しくしてくれればいいものを、直ぐに立ち上がり再び飛びかかってきた。
体力を削るべく、幾度も挑みかかるアントンを転がす。



