「あの野郎」
セシエルは、前方を歩く一人の男の背中に鋭い視線を送る。店から駆け出したが呼び止めることはせず、一定の距離を保ちつつ後を追う。
「間違いない──」
指名手配の顔写真を何度も見て覚えた、ライカの両親を殺した奴だ。
犯人は割れたものの、警察は未だに捕まえられずにいた。男女の二人組だったはず。もしかしたら、女と合流するかもしれない。
そこでふとライカを置き去りにしたことに気がついて、スマートフォンを手にした。男を見失わないように注意しながらライカからの通話を待つ。
「──ライカ。まだ店か?」
<あ、クリア。どこに行ったのさ。いきなり出て行くんだから、びっくりしたよ>
「ああ、ちょっとな。おまえは車で待っててくれ」
<え? クリアは何してるの?>
「あとで話す。今は忙しいから、切るぞ」
スマートフォンをバックポケットに仕舞い、男を確認する。尾行には気付かれていないようで安堵した。
男は周りを警戒しつつ、素早く路地裏に滑り込む。しばらく歩いて、寂れた五階建てビルのドアノブに手を掛けた。
鉄の扉は立て付けが悪いのか、錆びているせいか、きしんだ音を響かせて男を中に招き入れる。



