「食べたいものはあるか?」

 答えないライカから視線を外し、セシエルはウエイトレスと目を合わせた。

「何か、スープを持って来てくれ」

 鬱陶しそうに近づいた女性は一転、男の顔を見て目を輝かせ、それに気がついたセシエルは、うんざりとしながらも注文する。

「はい、かしこまりました」

 随分な態度の変化だなあおいと呆れつつ、ウエイトレスの背中を一瞥した。

 四十歳になったとはいえ、セシエルの顔立ちは未だ魅力的だ。今さら、否定する気もないが変に人気があるのも困りものである。

「ゆっくり飲め。初めは口に含んで、よく噛むんだ。いいな」

 少年は目の前に運ばれてきたスープに今にも飛びかかりそうな勢いだったが、それをセシエルが制止するように手を置いてフタをした。

「解ったな?」

「……わかった」

 相手が理解したのを確認すると、静かに手を外す──途端に、かぶりつこうとした皿をセシエルはするりと奪い取る。

 呆然としているライカに、やや目を吊り上げて左手の人差し指をゆっくり振った。