──戻ってこなくてもいいはずだった。なのに、俺は戻ってきた。ハンドガンが惜しくて戻ってくるなんて、俺は本当に馬鹿だとセシエルは頭を抱える。
ブライアンを捕まえた空き地で一週間後、カイルと対峙する。あのときは夜だったため、あまり印象はなかったが、昼間に会うとその顔立ちに、とても六十二歳とは思えない精悍さが窺えた。
「お前、クリアって言ったよな。あれか、流浪の天使か」
それに、セシエルは右片眉をピクリと上げる。
「俺の事を調べたのか」
「いや、昔に聞いたことがあるだけだ」
確認したあと、本題に入る。
「お前、俺のことを知っているな」
その問いに、セシエルはまた片眉を動かした。知っていると言ったも同然だ。
「どこで俺のことを聞いた」
「……ベリルだ」
それに、カイルは怪訝な表情を見せながら、セシエルを見つめる。
「来い」
しばらく眺めていたが、溜め息を吐いて顎で促し歩き出す。セシエルは観念したように、その後ろを付いていった。
しばらく歩き、家の前で止まる。小さな芝生の庭とシャッター付きの車庫、一般的な家屋だ。玄関で立ち止まると扉のハンドルを握る。
鍵穴に鍵を差し込まないのに扉が開いて「えっ」とセシエルは小さく声を上げる。
まさか、鍵を閉めていないのか?
「指紋認証だよ」
セシエルの疑問を察してか、カイルは目を向けずに答えた。
「指紋……?」
いや待て。一般的な家のドアハンドルに設置可能な指紋認証なんてあったか?
「こいつは試作品てやつだ」
「ああ、そう」
とりあえず落ち着きたくて生返事を返した。
†††