「そいつ、連れてったら戻ってこい」

「は?」

 こいつ、何を言っているんだ。

「冗談じゃない。戻ってくるのに、何日かかると思ってる」

 セシエルが眉間にしわを深く刻んでいると、杖の男が直ぐそばまで近づいてきた。そのとき、腰の後ろが少しの違和感を覚える。

「──っ!?」

 それがなんなのか理解し、慌ててバックサイドホルスターに手を掛ける。無い、俺のバンドガンが無い。

 こうも鮮やかに抜き取られるとは!

「これは預かっておく。早く戻って来いよ」

「てめえ」

 ハンドガンの一丁くらい。と思いたいが、使い込んで愛着もある。容易く手放すのは惜しい。 

「……解ったよ」

 相手の方が一枚上手だ。

「名前は? 俺はカイル」

 聞いて、やっぱりかと顔をしかめる。

「クリア」

「待ってるぞ~」

 電話番号をメモした紙切れを手渡し、ハンドガンを振りながら見送る姿に舌打ちする。

 いっそ奪い取ってやろうかと考えるも、あいつの師匠なら強いかもしれない。何より、暴力までふるうのは間違っている。
 セシエルは足取り重く、車に向かった。

 助手席には、盛大にいびきをかいて寝ているライカがいて腰が砕けた。いつだって、こいつは緊張感に欠ける。

 まあいい、ブライアンを引き渡してライカをジャックに預けた方が俺も安心出来る。そのまま、ここには戻らないという選択肢だってあるんだ。