──駐める場所を変えつつ男の潜伏先の家に張り付いてから三日目、深夜二時を少し過ぎた頃──暗い玄関から、のそりと人影が浮かび上がる。
セシエルは身を乗り出し、人影が薄暗い街灯の下に出た所で目を凝らす。
辺りをきょろきょろと警戒しながら歩く男は、ブラウンの短髪に彫りの深い顔立ち、ガタイは良く目つきが悪い、さらにチンピラよろしくな歩き方。目の色までは解らないが、確認した顔つきから間違いなく対象の人物だ。
どうやら、繁華街の方に向かっている。街に向かう前に捕まえる──ライカに車から出るなと言いつけ、意を決しドアを開いて男に近づく。
静かに歩みを進め、男の背後まで距離を詰めた。
「ブライアン・ハリスだな」
静かだが重たい声に名前を呼ばれた男は一瞬、背筋を伸ばしたがすぐさま走り出した。
「おい待て!」
思っていたより足が速く、捕まえてから確認すれば良かったと若干、後悔して慌てて追いかける。
「おい! 止まれ!」
こいつはやばい。逃げられそうだ。
ブライアンは薄暗い住宅街のなか、余所様の庭のプールを横切ったり、側溝を越えたり、庭に置いてある箱や遊具を蹴り飛ばしたりとやりたい放題だ。
そして空き地に入り込み、そこにいた人影の横を走り抜けようとしたとき──



