天使の拾いもの

 
 それから数時間後──

 車を路肩に駐めて、セシエルは小さく溜め息を吐き助手席のライカに視線を送る。

「どうしてあんな事をした」

 クラスメイトを殴るなんて、どうかしている。

 ライカは引き取ってからぐんぐんと成長し、今ではクラスいちの体格だ。そんな図体(ずうたい)で相手を殴れば、かすり傷だけでは済まない。

 実際、殴られた子は口の端が切れて青あざが出来たと担任が言っていた。

 うつむいて何も答えないライカに、セシエルはまた溜め息を吐く。そして次の言葉を紡ぎかけたとき、ライカが顔を上げた。

「オ、オレが馬鹿だって」

「なに?」

「のろまで、頭が悪いって、馬鹿にされた」

「いつから」

「学校に行って一ヶ月くらいから」

 ライカは確かにおっとりしていて飲み込みも遅い。しかし、馬鹿にされるほどじゃないはずだ。

 どんなに時代が変わり、数は減ったとはいえ、未だに残っているものに根深いものを感じセシエルは眉を寄せた。

 いじめている子供たちにも、明確な理由はないのだろう。ただ漠然とライカをいじめている。それはおそらく、親の普段の態度からくるものかもしれない。

 それでも──

「暴力で解決しようとはするな」

 友達がいなくなるぞ。

「なんでだよ。あいつらが悪いのに!」

「親に殴られたとき、言いたい事が言えたか?」

「──っ」

 言葉に詰まるライカを一瞥し、フロントガラスから見える空を見やる。

「暴力っていうのは、そういう事なんだ」

 お前は、いじめた奴らと同じことをしたんだ。

 セシエルがつぶやくように発すると、ライカは膝に乗せた手を握りしめた。ずっと、肩をふるわせてうつむき、ただ黙っているだけだった。