──目の前にふと、小さな人影が見えて目を眇める。

 延々と続く道路の端を子供がトボトボと歩いている。走る速度を緩めて周囲を見回しても、親らしき人間はいない。

 州の外れは荒野が続き、建物などもほぼ見えない。

「坊主、何してる」

 このまま放っておくのも後味が悪いと窓を開けて声を掛けた。

「お父さんとお母さんを待ってるの」

 大きなドラムバッグを引きずるように力なく歩いていた少年は、声のほうに振り向き視線をあげて答えた。

 それにセシエルは驚いて車を止める。

「いつからだ」

「わかんない」

 よく見れば、随分と薄汚れた身なりをしている。この道は車の通りも少なく、下手したら何日も一台も通らないことがあるほど閑散としている。

 それを考えると、この少年は数日ものあいだ一人でいたのかもしれない。

「──っ!? な、なに?」

 少年は、車から降りて歩み寄る男に少しの警戒を見せたが、かがんで視線を合わせたことで安心したのか逃げ出すことはなかった。