広がる灰色の空の下、黒い服を着たセシエルとライカは、言葉もなく二つの棺を見下ろし牧師の言葉を上の空で聞いている。

「──どうして?」

 聞こえたつぶやきにセシエルは目を細める。

 セシエルがこれまで受けてきた傷は人を救ったという誇りの証だが、ライカが付けられたものはただただ不満のはけ口というだけだ。

 それでも──他人から見れば酷い親でも、こいつにとっては唯一の親だったんだ。

 生きていれば殴りつけて説教しまくってやったのに、逝っちまった相手に罵倒なんてかっこわるいこと出来るかよ。

「──っ!」

 土に埋もれていく棺を眺めていたセシエルの袖がふいに引っ張られる。振り向くと、ライカが袖の端を掴んでいた。

 涙をこらえて見えなくなる棺を見下ろしているが、袖を掴むその手は微かに震えていた。