「ふぅ…」
あれから一言も喋らず一週間が経つ。
「どうしたのー、夜月ちゃん。
何か悩み事ー?」
「…いえ。」
いつものように穏やかな笑顔でコーヒーを入れるマスター。
「いいねぇ。」
しみじみと遠くを見つめながら言う。
「え、どうしてですか?」
悩み事の何処がいいのか、
「悩みなんてさぁ、若い内だけなんだよ。
この年になると、もう死に目が近いせいかどうでもよくなる。
周りだって見れなくなってしまうんだよ。」
「?、と言うと?」
「ははっ、つまりねぇ、若いからこそ悩めるんだ。
いいかい?
悩みの原因は必ず自分の外にあるものなんだよ。
自分の一人では決して生まれない。
だからこそ、辛くて苦しい。
でもね?
それは、周りには自分を悩ませてくれる程、大切な何かがあるんだ。
その何かは自分で見つけ出さなきゃならない。
そうしなきゃ、本当の意味で悩みなんてはれやしないんだよ…。」
「?」
話が難しい気がするが…
つまりは悩みは大切だと思うものが原因?
あぁ、もう日本語が分からなくなってきた…。
「ははっ、ごめんね。
余計にゴチャゴチャしちゃったかな?」
「いえ…。」
「まぁ、いいさ。
今のうちに沢山悩んで沢山苦しむ事が大切なんだよ。
それが君たち若いもんの仕事だからね。
大丈夫。
心配しなくてもいいんだよ。
ただ、重く考え過ぎない方がいい、って事を言いたかったんだ。
さぁ、コーヒーだよ。」
未だに考え続ける俺に差し出されたコーヒーからは微かに甘い香りが漂っていた。


