「懐かしいか?」


ふいにそう聞かれ、昔に思いを馳せていたムメは弾かれたように顔を上げる。


「何故、此所へ?」


神がいない神社。
小さいムメは、此所で言霊と遊んでいた。
ずっと、一人で。

兄は自分を避けるし、他に歳の近い親戚はいない。友達は……いなかったのだと思う。
普通の家とは違う神官の一族に生まれたムメは、生まれながらにして言霊を視る事ができた。
“視える”という事を他人に言わぬよう厳しく躾られていたので、力の事がバレたのではない。

言った事の本質、そして本音を確実に捉えるムメは、子供の間では普通だったが大人達に嫌がられたのだ。