「……大丈夫?」
「そりゃあ、正直、大丈夫じゃないけどな」
昨夜の兄貴の姿が、脳裏に焼きついたままだった。
まなみに会って何と言えばいいのかもわからなかった。
「けど、ここらで俺も覚悟決めてぶつからなきゃな。もしこれで断られたら、スパッとあきらめられるし」
「うん……頑張れ」
トオルも詩織も、本当にいい奴らだと思う。
強がる俺の引きつった笑顔に気づかないふりをして、背中を押してくれた。
夕方、俺は数日ぶりの我が家に向かった。
西に傾いた太陽が、俺の顔をのぞきこむように照らしていた。
あと50メートル。
あと30メートル。
近づくにつれ鼓動は早くなる。
もしも玄関を開けたとき、まなみが出かける準備をしてくれていたなら、俺はどれだけ嬉しいだろう。
逆に、もしもまなみがいなかったら?
考えるのも嫌だ。
家の前で立ち止まり、俺はまなみに電話をかけてみた。
プー、プー、と通話中の音が響く。
そのとき隣のゆいさんの家から、まなみが出てくるのが見えた。
「まな――」
声をかけようとして、俺は口をつぐんだ。
まなみが携帯で誰かと話しているのが見えたからだ。
「武ちゃん。今どこ?」
はっきりとまなみはそう言った。
電話の相手は――兄貴。
俺は自分ちの庭に隠れ、まなみの声に耳をすましていた。