「だから俺、部屋に壁を作ってふたつに分けられないか、親父に相談したんだ」

「……あれ、兄貴の提案だったんだ」

「うん」


短い沈黙が訪れて、兄貴ののどぼとけがヒクヒクと動いた。

また泣きそうになるのを我慢しているのだとわかった。

「……ごめんな、ケイ。お前のために作った壁、お前のために壊してやりたいけど、……やっぱ無理だ」


俺まで泣きそうになった。


どうして兄貴は、こんなにデカイんだろう。

そしてどうして俺は、こんなにちっぽけなんだろう。




トオルたちが戻ってきたのは、兄貴が帰ったすぐ後だった。

すっかり冷えきった体を震わせながら、

「財布、持ってくの忘れてた」

と言ったトオルに、俺は力なく笑った。


兄貴とどんな話をしたのか、ふたりとも気になっているはずなのに、聞いてこない。

そろそろ寝よっか、なんてまだ8時なのに言う詩織に、俺はもう笑えなかった。


「……俺、まなみのこと好きになったのは、間違いだったのかも」


一瞬にして空気が凍りついた。


立ち尽くすトオルと、うなだれる俺。

深い沼の底にうまったみたいに、部屋は重く静まり返る。


そんな中で、詩織だけが動いた。


「ケイ、飲むよ」

「……は?」