兄貴はとめどなく涙を流しながら言った。


「俺さあ、今どうしたらいいのかわかんねえんだよ。正直お前のことムカつくし、でも、まなみに出会う前から、お前って俺の弟なんだもん」

「……兄貴」

「ぶん殴ってやろうかと思ったけど、やっぱ俺、お前のことが可愛いくてしかたねーんだもん」


大の男が恥もプライドもかなぐり捨てて、全身で泣いている。

自分のための涙じゃ、きっとこんな風にはならない。


俺は、とたんに自分が恥ずかしくなった。




ひとしきり泣いたあと、兄貴は豪快に鼻をかんで、照れ隠しの笑顔を見せた。

まっ赤になった鼻の先が痛々しい。


「ごめんな。いきなり友達の家にまでおしかけて」

「いや……」

「正直に話すとさ。こないだみんなで飯食いに行ったとき、お前とまなみが廊下でしゃべってるの、盗み聞きしてたんだ」


兄貴はまるで自分の方が悪いみたいな言い方をした。

全然、そんなことないのに。

どう考えても悪いのは俺だ。

だからこそ、俺は何も言葉が出なくなっていた。


「なあ、ケイ。俺らの部屋がひとつだったときのこと、覚えてるか?」


もちろん、と俺が言うと、兄貴は嬉しそうに笑った。


「でもさ、お前が小6のときだったかなあ。友達はみんな自分の部屋があるのに、なんで俺は兄貴と一緒なんだって、ダダこねて泣いただろ?」


ガキの頃の俺は、そんなくだらないことで泣いてたのか。

まったく覚えていない。
けど、黙って相づちを打った。