「あ……えーっと。俺、タバコ買ってこようかな」
しらじらしい声でトオルが言う。
「詩織、お前もタバコ切れてるだろ?」
「え? あっ、うん」
「んじゃ俺らタバコ屋行ってくるから、武史君、ゆっくりしててよ」
そそくさと部屋を出て行くふたり。
……てか、財布持ってねーじゃん。
それ以前にお前らタバコなんか吸わねーじゃん。
ほんと、バカ……。
「――ケイ」
低い声で兄貴に呼ばれて、俺は反射的に背筋を伸ばした。
兄貴は唇を一文字に結んで、恐ろしい顔で俺をにらんでいる。
しばらく沈黙が続いた。
耐え切れなくなった俺が口を開きかけた、そのとき――
「ケイ、ごめんなぁ」
突然、兄貴は顔をくしゃくしゃにして、大泣きし始めた。
「……へ?」
「ほんと、ごめん。最近の俺、いい兄貴じゃないよなあ。ごめんな」
鼻水ダラダラの顔が、気づけば目の前にあった。
いったい、何が起こっているんだろう。
俺は痛いくらいの力で兄貴に肩をつかまれて、ひたすらあやまられている。
あまりに突然の出来事に、あっけにとられてしまった。