「……」
まるで幽霊にでも遭遇したみたいな顔で青ざめるまなみ。
ここまであからさまだと、ムカつくのを通り越して悲しくなる。
「なんで俺のこと無視すんだよ」
やっとのことで俺は口を開いた。
冷静に話し合いたいのに、冷静な言葉なんか、ひとつも浮かんでこなかった。
「無視なんか」
「してんじゃん。いきなり実家帰るし、連絡しても返事ないし。
やっと帰ってきたと思ったらこれかよ。ワケわかんね―」
「――武ちゃんに言ったの!」
叫ぶようなまなみの声が、廊下に響いた。
「……え?」
「武ちゃんに、私たちのこと話したの」
……えっと。
今、何て?
兄貴に、俺らのことを、話した?
俺は混乱に飲み込まれそうになるのを必死でこらえた。
どちらにしても兄貴にはちゃんと話すつもりだった。
だからそれ自体は、どうってことない。
肝心なのは、俺が知らないところでどんなやり取りがあったのか、ってことで……
「それで、兄貴は何て?」
「……家を出てふたりで暮らそうって」
思いもよらなかった言葉に、足元から崩れ落ちそうになる。
「まさか、お前まで本気で出て行くつもりじゃないよな?」
「それは、わからない」
まるで呼吸困難におちいったみたいに、苦しそうに言うまなみ。
けど、俺の方こそ息が止まりそうだ。



