「なあ、それってもしかして、まなみちゃんは完全に武史君を選んだってことじゃないか?」
「ちょっと、トオル!」
詩織はあわててトオルの口を押さえた。
けれど酔っ払いのトオルはそんなの気にせずしゃべり続ける。
「いきなり北海道に帰ったのも、とりあえずお前と距離を置きたかったとかさ」
俺はたぶん、ショックをそのまま顔に出していたと思う。
“まなみが、俺じゃなくて兄貴を選んだのかもしれない”。
自分でも考えたことがあったけど、人から言われると改めて傷つくもんだ。
うつむく俺を詩織が心配そうに見つめているのがわかった。
「あ……えっと、何か明るい話しよっか」
普段はマイペースな詩織が、必死で気を使っているのを見ると、申し訳ない気持ちがこみあげた。
「ケイ、バレンタインのイベントのこと聞いた?」
「ああ、確か……先輩たちのショーがあるんだっけ?」
その通り、と詩織。
ショーという言葉を聞いて、酔っ払いのトオルもとたんに表情を引き締める。
――バレンタインの夜、うちの卒業生たちが集まって、学校でイベントを開くことになっていた。
みんな第一線で活躍しているライティング・プランナーだ。
俺たちにとってはまさに憧れの存在だった。
「それでね、在校生からも数人、参加者を募るらしいんだ」
「まじで!?」
「先輩方の前座として、20分間の在校生のショーがあるんだって」