「ほんといきなりだったのよ」
と母さんは言った。
今朝早くに起きてみたら、まなみがキャリーバッグに荷物を詰めていたらしい。
そりゃあ北海道は実家だし、この時期に帰省するのは当たり前かもしれないけど。
そんなに急いで行くことないじゃん。
なんだかまるで、逃げているみたい。
――でも、何から?
昼過ぎに帰ってきた兄貴にもこのことは伝えられたけれど、あいつは眉ひとつ動かさなかった。
「そっか」
と一言だけ言って、兄貴は自分の部屋に閉じこもった。
何か変だ。
俺は胸騒ぎを感じていた。
まなみに何度も電話をしたがつながることはなかった。
普段は電話なんか好きじゃない俺が、寝るときも風呂に入るときも常に携帯をそばに置き、いつ鳴るかわからない着信音を気にしている。
そんな日々を過ごしていたら、いつの間にか世間は新しい年を迎えていた。
まだ初日の出も昇らないうちから、次々に送られてくる年賀メール。
けれどその中に、俺が一番見たい名前は見当たらなかった。
俺は携帯を握りしめ、慣れないメールを打った。
【ハッピー・ニューイヤー。北海道は寒いんだろうなあ。風邪引いてないか?
とりあえず今年もよろしく】
……ちょっと違うな。
【あけおめ。2008年もいじめてやるから覚悟しとけよ】
……全然ダメじゃん。