「あれ? 兄貴は?」
俺が帰ったときみんなは夕食のテーブルを囲んでいた。
けれどそこに兄貴と、そしてまなみの姿はなかった。
「武史は今日友達のおうちに泊るんだって」
父さんの言葉を聞いてホッとした。
とりあえず、あのふたりが一緒にいる訳ではなさそうだ。
「まなみは?」
「なんかちょっと体調が悪いらしくて、今日はもう寝るって。心配いらないって言ってたけど、大丈夫かなあ」
「……そう」
「あ、ケイ、ご飯は?」
ダイニングを出る俺の背中に母さんが言った。
「いい。食ってきたから」
って、もちろん嘘。
兄貴の部屋の前に立って、ノックした。
「まなみ」
そういえばこんな風に堂々と呼びかけるのって初めてじゃないか?
いつも会話はあの壁越しだったから。
「体調悪いんだって? 大丈夫か?」
ドアの向こうから返事はなかった。
眠っているんだろうか。
まあ、しかたないか。
明日まなみの体調が戻っていたら、ちゃんと話そう。
俺はあきらめて自分の部屋に戻った。
けれど次の日の朝早く、まなみは北海道に発ってしまった。
俺には、何の一言もなく。