「てゆうか兄貴は心配じゃないわけ?こんな薄い壁一枚の距離に、俺がいてさ」
「ケイ、お前――」
兄貴の表情が険しくなった。
寄せられた眉間に浮かぶ、警戒の色。
「――まさか、この部屋の会話を盗み聞きする気じゃ…」
「違う!バカ野郎」
どうして発想がそっちにいくんだろう。
健全なのか不健全なのかまったく分からない。
兄貴はとぼけた表情で首をかしげる。
「え、じゃあ風呂場のぞくつもりとか?」
……もういいよ、バカ兄貴。
この展開、トオルいわく「おいしすぎる」らしい。
「だってさ、隣の部屋に女の子が住むなんて、ときめくシチュエーションじゃん?」
愛と刺激を欲する18歳男子なら、まあ当然の台詞。
けれどそれって、隣室に住み始めるのが“普通の女の子”の場合であって、“兄貴の彼女”なら話は別。
「俺は嫌だ。気が重い」
ため息と一緒にそうぼやくと、トオルはどこか偉ぶった笑顔で俺の肩を叩いた。
「まあ、これでケイが少しでも女に興味持つキッカケになれば、いいと俺は思うけどね」
「なんかお前、ムカつくなあ」
「俺はケイのことを心配してやってるんだよ」
別に心配してもらわなくても、女に興味がないわけじゃない。
俺だって愛と刺激を欲する、ただの18歳男子。
けど、だからこそよけい困ってるんじゃないか……。