Pure hearts 赤 -ケイside-


完全に寝不足で迎えた翌朝。

ぼんやりとダイニングテーブルに座る、俺の視界のすみっこに、朝からハイテンションの兄貴がいた。


食欲旺盛な兄貴とは正反対に、俺は朝飯がほとんど喉を通らない。


食パンを半分残してお皿に置いたそのとき、キッチンからまなみの声がした。


「エミちゃん、オレンジジュースでいい?」

「うん! ありがとう」

「ケイは?」

「あ、アイスコーヒーお願い」


まなみはいつもこうやって、みんなの分の飲み物も聞いてくれる。

だから普段と何も変わらないやりとりだったんだ。


兄貴が、何気ない疑問を口にするまでは。


「あれ? ケイのこと呼び捨てにするなんて、お前らけっこう仲いいんだ」


不意をつかれ、俺もまなみも動揺を隠せなかった。

それに気づいていないのか、兄貴はどこか嬉しそうに言う。


「昨夜はほとんど目も合わせてなかったから、てっきり仲悪いのかと思ってたよ」

「……そうか? 別に、そんなことないけど」


アイスコーヒーを飲みながら、しらじらしい台詞を口にする俺。


こんな状況、いつまでも続けてちゃいけない。

心の底からそう思った。






その日のバイトの帰り道、俺は詩織に電話をかけた。


「なあ、お前こないだ言ってたよな。まなみのこと、いい子だって」

『え? うん』


とうとつな質問に、詩織は少し驚いたみたいだった。


「でさ、いい子すぎると時として幸せを逃す、とも言ってたよな」

『言ったね』

「ついでにお前から見れば、俺も“いい奴”なんだっけ?」

『何なの? いきなり』