「お前さっき、むりやり笑顔作ってただろ」


え? という声がかすかに聞こえた。


「すぐわかるんだよ。お前の作り笑いって下手くそすぎ」

「……そっかな」


やっとしゃべってくれたのに、まなみの声は切ないくらいにかすれてる。


「お前がさ、心の底から笑ってるときは、あんなにひきつった笑顔じゃねーもん。
ほんとのお前の笑顔って、何てゆうか……ひまわりが咲いた感じ」


「何それ」


壁のむこうでまなみが笑った。

だけど俺は笑わなかった。

この言葉に、嘘はなかったから。


しばらくするとまなみは、小さな声で「ありがとう」と言った。


「嬉しいなあ。……私、ひまわり好きなんだ」


俺はそっと壁に右手を当ててみた。

気のせいだろうか。
なんだか、温かい気がする。


「ケイ……あのね、私――」


そのとき、まなみの声にかぶるように、足音が近づいてくるのが聞こえた。

ドカドカと豪快な足音。
俺が子供の頃からずっと聞いてきた音だ。


「あーさっぱりした」


隣の部屋のドアが開いて、風呂あがりらしい兄貴の声が聞こえた。


「まなみも入ってくれば?」

「私は夕食の前に入ったから」

「そう」


聞きたくない会話が容赦なく突き抜けてくる。


この壁って、こんなに薄かったんだ。


押し当てた右手が、ふっと冷たくなった気がした。