「みんな、メリクリ―! 腹へったー!」

無邪気にそんなこと言いながら、玄関で靴を脱ぎ捨てる兄貴。

あ然とするみんなをほったらかしで、さっさと家の中に入っていく。


いったい何なんだ!?

なんでそんなにマイペースなんだよ。


憮然としながらダイニングに戻った俺に、兄貴は言った。


「おっ、ケイ。久しぶりだな」

「……おう」


俺の胸元に兄貴は軽くパンチを入れる。


「お兄様の帰還だ。喜びなさーい」

「……相変わらず、アホだな」

「お前こそ相変わらず可愛くねーなー」


人の気も知らないでケラケラと楽しそうに笑う兄貴。


家族がダイニングに戻ると、兄貴は当たり前のようにいつも自分が使っていた椅子に座った。

それは、まなみの隣の席だ。
この3ヶ月間ずっと空席だった椅子。


父さんが言った。


「武史、お前なあ。いつものことだけど、あんまり父さんたちを驚かせないでくれよ」

「ごめんごめん」


兄貴は謝るけれど、反省している様子なんかちっとも感じられない。

残っている夕食に手をつけて、空腹を満たすことに夢中だ。

図太い性格は、相変わらずだった。


そんな兄貴にみんな腹を立てつつも、元気な姿を見て次第に顔がほころんでいく。


俺は、笑えなかった。

この状況で笑えるわけがない。


そしてそれは彼女も一緒だった。